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SPECIAL REPORT from RKKCS News Letter標準化とガバメントクラウドの展望Report

2025-01

当社では顧客向けサービスの一環として、国・地方のDX動向から、ビジネスパートナーのソリューション、最新のITトレンド、さらには現地視察を交えたDX先進国の事例をご紹介する「RKKCSニュースレター」を定期配信しています。
今回は自治体関係者の皆様より反響の大きかった2025年1月号「標準化とガバメントクラウドの展望」をSPECIAL REPORTとして特別掲載いたします。

本コンテンツでは「地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化」「ガバメントクラウド」について、改めて深堀りしています。
なぜ、今、標準化、ガバクラが注目されているのか?これまでの道のりと、今後の展望を交えながら、その背景や課題、そして標準化がもたらす未来社会の姿までを多角的に解説します。
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標準化の始まり

自治体戦略2040構想研究会(2017年10月~2018年7月)

2017年10月に、少子高齢化や人口減少といった社会課題に対応するため、「自治体戦略2040構想研究会」が総務省により設置されました。

この研究会では、自治体が抱える様々な課題を解決し、持続可能な社会を実現するために、デジタル化の重要性が強く認識されました。

特に行政内部(バックオフィス)の情報システムについて、自治体ごとに開発し部分最適を追及することで生じる重複投資をやめる枠組みとして、「自治体行政の標準化・共通化」が言及されました。

図1: 総務省「自治体戦略2040構想研究会 第一次・第二次報告の概要」より抜粋
図1: 総務省「自治体戦略2040構想研究会 第一次・第二次報告の概要」より抜粋

スマート自治体研究会(2018年9月~2019年5月)

自治体戦略2040構想研究会の成果を踏まえ、より具体的な検討を進めるため、「スマート自治体研究会」が発足しました。
この研究会では、現在の標準化の原型となる次の点が報告されました。

  • 業務プロセスの標準化
  • システムの標準化
  • データ形式の標準化
  • 様式・帳票の標準化

また、大きな方策として「行政アプリケーションを自前調達方式からサービス利用へ」の方針が打ち出されました。
いわゆる、クラウド利用の原則化となります。ただし、この時点ではガバメントクラウドは言及されていません。

図1: 総務省「自治体戦略2040構想研究会 第一次・第二次報告の概要」より抜粋
図2: 総務省「スマート自治体研究会 報告書 ~「Society 5.0時代の地方」を実現するスマート自治体への転換~ 概要」より抜粋

地方公共団体情報システム標準化基本方針(2022年10月7日 閣議決定)

スマート自治体研究会の報告を踏まえ、住民記録を皮切りに業務毎の標準化検討会が開催されました。この間、地方公共団体情報システムの標準化に関する法律案の概要等が公開され、標準化の事務が定義されました。デジタル・ガバメント実行計画(2020年12月閣議決定)が定められ、ガバメントクラウドを利用する事、標準化の期限が2025年度になることなどが公開されました。

その後、2021年9月1日にデジタル庁が発足するとともに「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律」が施行されました。2022年10月に「地方公共団体情報システム標準化基本方針」が閣議決定され、標準化への法的な取り組みが明確になりました。なお、基本方針については、2022年12月のニュースレターでも取り上げていますので、ぜひ、見返してみてください。

図3: デジタル庁「地方公共団体情報システム標準化基本方針の概要」より抜粋
図3: デジタル庁「地方公共団体情報システム標準化基本方針の概要」より抜粋

標準化の課題(初期: 基本方針発出時点)

標準化は、当初から課題が山積していました。では、基本方針発出時点でどのような課題があったか振り返ります。

基本方針発出の遅れ

基本方針は、2021年9月に制定された法律に基づき、2022年3月までに発出される予定でした。基本方針には共通機能標準仕様書が含まれます。それが半年遅れでの公開となり、2022年9月時点では標準化対象20業務の標準仕様書は発出済みの状況です。核となる基本方針、データ要件・連携要件、共通機能標準仕様書が一番遅い発出となりました。その結果、基本方針に合わせて標準仕様書間の横並び調整、改版が行われました。

なお、データ要件の中には文字要件も規定されています。この文字要件も課題がある状態です。まず、外字が許されておりませんので、既存外字は必ずいずれかの文字に同定する必要があります。それに加えて、下図のように、同じ標準準拠システムであっても、戸籍・住記等システムとその他システムでは、異なる文字セットを使用する必要があります。また、戸籍・住記等システムでは、7万文字以上を取り扱う必要がありますが、Windowsが取り扱うフォントファイルでは、1つのファイルに約6万5000字までしか格納できないという制約があります。結果、複数フォントファイルを取り扱わなければ標準仕様を満たせないということになりますが、これには開発コストが非常にかかる問題のみならず、そもそも、帳票ソフトウェアやOffice製品が対応していないという課題も存在しています。

図4: デジタル庁「地方公共団体情報システムにおける 文字要件の運用に関する検討会(第1回)」より抜粋

標準仕様書間の記載粒度のズレ

標準仕様書は、業務毎に所管省庁が作成を実施しています。結果として、標準仕様書に記載される記載感や様式等が統一されていないという問題があり、同じ内容を記載しているにも関わらず、仕様書間で異なるため判断に苦慮する箇所が存在します。一部は、前述の横並び調整で統一されましたが、まだ、記載内容が異なる箇所も存在します。加えて、デジタル庁が作成する共通機能標準仕様書、データ要件・連携要件においては、標準化の根幹を為す部分であるにも関わらず、不明瞭な点が多く、指摘事項が多々存在している状況です。

単一の標準仕様書

標準仕様は、一部業務において政令市向けや中核市向けといった規模別要件を示しているものの、基本的には自治体規模に応じたものになっていません。自治体規模毎に業務プロセスは異なりますが、今回の標準化では、プロセスまで標準化を求めています。しかしながら、プロセスが変わることで実施すべき事項を変える必要があります。

2025年までの短期間でこれらを安全に実施するのは骨が折れる工程となることが予想されます。

運用経費3割削減

基本方針では、2018年度比で少なくとも運用経費3割削減を目指すとされています。一方で、2022年11月のニュースレターでも取り上げた先行事業の中間報告(2022年9月公開)によると、コスト削減どころか、むしろ、コスト増となることが判明しております。デジタル庁としては引き続き、最適化を進めることでコスト削減を目指すとしていますが、3割削減は非常にハードルが高いことが伺えます。

2025年度までの移行期限

基本方針では、2025年度までに標準準拠システムへの移行を目指すことが改めて示されました。基本方針が発出されるまでの間に、政令市や各種団体から移行期限の緩和を求める要望が出されていましたが、期限は変わりませんでした。これに伴い、開発・移行作業を行うベンダーのリソース不足が起こり、費用が高騰する懸念が示されています。

ガバメントクラウドの利用開始の遅れ

当初、2022年度からガバメントクラウドは利用可能となる予定でしたが、2023年度以降の利用にずれ込んでいます。ガバメントクラウドを利用するにあたって必要なガイド類の整備が間に合わないためとされました。なお、ガバメントクラウドのサービスは2022年10月に、Amazon Web Service、GCP(現在は、GoogleCloud)に加えて、Microsoft AzureとOracle Cloud Infrastructureのサービスが追加されました。

なお、基本方針が発出される直前の2022年8月12日、デジタル大臣に河野太郎氏が就任しています。各府省庁に対して問題提起し、強いリーダーシップをとり、けん引していくことと自治体とのより一層の連携が求められていました。

標準化の進展と新たな課題

「地方公共団体情報システム標準化基本方針」の発出から2年以上が経過しています。基本方針発出時点の課題は、現時点において解決しているかと言うと、残念ながら完全に解決に至っているものはありません。また、この2年の間に基本方針の改定(2023年9月8日)も行われました。この改定によって新たに移行困難システムという枠組みが生まれました。現時点で、公表(2023年10月時点)されているのは171団体、702システムとなりますが、これは氷山の一角※1だと言われています。このような状況について、日経クロステックでは「官製デスマーチ」※2という表現で、現場の切迫した実態を伝える記事が公開されています。

では、2年間の間に標準化が進展したのか、新たな課題とは何なのかを振り返ります。

※1: 富士通と富士通Japanが担当する約300自治体が期限に間に合わないという記事が先日公開されたばかりです。
※2: 日経コンピュータ、2024年8月8日号 pp.10-21にも掲載があります。

標準仕様書の改版

基本方針が発出されて以降、ほとんどの仕様書が改版を3回以上行っています。仕様書の改版が行われると、それに伴い、データ要件・連携要件も改版されます。これは、不備があった仕様書が正しくされるという進展もある一方で、新たな機能追加等が行われるため、開発計画が成り立たなくなるという問題が発生しています。残念ながら、現時点でも多数の業務の改版が予定されており、非常に厳しい状況が続いています。なお、この改版には後述する度重なる法改正も影響しています。

文字要件

文字については、2024年9月のニュースレターでも取り上げていますが、標準準拠システムにおいて新文字セットである行政事務標準文字(MJ+)を利用するという事が確定しました。フォントファイル問題は、デジタル庁が行政事務標準文字より使用が見込まれない文字を削除したフォント(行政事務標準当用明朝フォント)を提供することで、一定の解決が見込まれる形となりました。

図5: デジタル庁「自治体向け文字説明会資料」より抜粋
図5: デジタル庁「自治体向け文字説明会資料」より抜粋

法改正に伴うシステム改修

この2年間、大規模法改正と言われる案件が立て続けに発生しています。児童手当の拡充、個人住民税における定額減税、国民健康保険の保険証廃止、戸籍法改正に伴う住民記録の振り仮名対応などがあります。これらは現行システムの改修のみならず、新システムへの改修も必要となり、二重の開発コストがかかります。また、今後も、Public Media Hub、介護DX、103万の壁なども控えており、頭を抱える状況は続いていきそうです。

ガバメントクラウドにおけるコスト

基本方針発出時点で、コスト削減が難しいことは判明していましたが、これは現時点でも変わっておりません。2023年度から継続して行われている先行事業は2024年9月に中間報告が公表されていますが、この内容を見ると自治体クラウド等の共同化を行っている自治体はコスト増になると報告されています。

報告書の中で、コスト減のための追加対策として、通信回線費の削減、クラウド大口利用による経費削減、ガバメントクラウドでは利用が認められていない3年間の長期割引契約、ソフトウェア借料・保守料が3割削減などが挙げられています。さらにクラウド利用料は1ドル=115円という為替レートを前提とした試算になっており、どれも現在の市場状況を考えると現実的ではありません。

データ連携における方針

2024年6月26日に開催された「第1回共通機能等課題検討会」にて「データ連携に関する課題は事業者間協議にて解決を行う」こととされました。

元々、データ連携は、ベンダー間で非常に特徴が出る内容となっています。そのため、デジタル庁がデータ連携の仕様を定める事は、非常に意義を感じていた部分でした。この連携部分を「事業者間調整にした」ということは、もはや「標準化を断念した」と受け止めたベンダーは多かったと思います。第2回の共通機能等課題検討会において、リファレンスは作成する方針となったのですが、「今やられても……」という声も上がっています。

ここまで振り返って改めて見直すと、基本方針発出時点の課題はほぼ解決しておらず、進展もほぼありません。日経クロステックの「官製デスマーチ」という表現は当を得ていることを改めて感じさせられます。

図6: デジタル庁「令和6年度 第2回共通機能等課題検討会資料」より抜粋
図6: デジタル庁「令和6年度 第2回共通機能等課題検討会資料」より抜粋

今後の展望

では、「標準化すべきではなかったのか」という問いに対しては、標準化の必要性と同時に、その限界についても理解する必要があります。自治体戦略2040構想研究会が目指すのは、「従来の半分の職員でも自治体が本来担うべき機能を発揮」させることです。標準化はそのための手段の一つであり、その有効性は他の仕組みとの連携によって最大化されます。

デジタル庁のHPには「地方公共団体システム標準化により目指す姿」として8つ挙げられています。スペースの関係上、全ては記載しませんが、今後の展望を考えるにあたって個人的に重要だと考えている2点を以下に示します。

  • 4.ガバメントクラウドを活用することで、地方公共団体が従来のようにサーバ等のハードウェアやOS・ミドルウェア・アプリケーション等のソフトウェアを自ら整備・管理する負担を軽減できるようにすること。
  • 8.国または地方公共団体は、新たに地方公共団体の基幹業務システムのデータを活用した施策を講ずるに当たり、標準化されたデータの取り込みに対応したアプリケーションを、あらかじめガバメントクラウド上に構築することで、従来、時間と費用の両面から大きなコストが生じていた基幹業務システムからのデータの取り込みを円滑に行うことが可能となり、迅速な国民向けサービスの開始に寄与すること。

標準化のメリットは多岐にわたりますが、中でも特に重要なのは、この2つだと考えています。クラウドの利点を活かし、かつ、標準化されたデータを活用することで、より効率的で質の高い住民サービスを迅速に提供できるようになります。少子高齢化に伴う人口減少は、自治体職員の減少を招き、従来型の業務運営では限界を迎えています。スマート自治体研究会報告書でも指摘されているように、AIをはじめとするICTの活用が不可欠です。標準化は、このICT活用を加速させるための基盤となります。

標準化により、電子化・ペーパーレス化が円滑に進み、データ化された情報をAIが活用することで、職員の業務負荷を軽減し、新たなサービス創出を可能にします。クラウドの導入は、AI活用を容易にし、自治体全体の業務効率化と住民サービスの高度化を促進します。さらに、柔軟な利用形態により、必要に応じてサービス規模を調整できるため、住民ニーズの変化にも迅速に対応できます。

標準化を起点として、AIやクラウドといった先端技術を積極的に導入し、住民にとってより便利で魅力的な自治体を実現していく必要があります。

まとめ

当社は、標準化の進展に伴い、より高度なサービスを提供するための体制強化を進めてまいります。自治体様のパートナーとして、引き続き、より良いサービスを提供し、自治体様の課題解決に貢献してまいります。

追記

2024年12月、標準化基本方針が改定されました。主な改定内容は以下のとおりです。

  1. 一部機能の提供が2028年度末まで緩和
  2. 移行困難システム、改め、特定移行支援システムとなり、移行完了の期限が2030年まで延長
    (移行困難システムは、データ要件の標準に関する標準化基準には適合させる必要があったが、特定移行支援システムにおいては、「必要に応じてデータ要件の標準を踏まえたデータ項目に基づくデータの抽出」となった)
  3. 標準仕様書の改定・運用ルールが基本方針に明記(元々、ルールは存在したが、有名無実化状態であった)
  4. デジタル基盤改革支援基金の設置年限が5年延長を目途に検討

この改定を受けて、事実上の稼働延期と捉えた方も多いかと思います。しかしながら、これはあくまでも例外的な対応となります。法律上の期限は、2025年度末のままとなります。当社と致しましては、現在の計画通り、2025年度末までに標準化への移行を完了させる予定です。

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こちらのコンテンツは、当社から顧客向けに定期配信している「ニュースレター」の 2025年1月号を掲載したものです。「ニュースレター」では、自治体システム標準化やガバメントクラウドを含めた国・地方のDX動向から、ビジネスパートナーのソリューション紹介、最新のITトレンドの紹介や解説、さらには現地視察を交えたDX先進国の事例紹介等、幅広いテーマを取り上げています。過去配信分は、RKKCS初の出版書籍『CLUE Vol.1』にてご覧いただけます。